前津小林文庫 史料整理報告書(2020年度)

野村朋弘(京都芸術大学)

 

和装本の目録については大まかな完成を迎えつつあるものの、使用に耐えうる、詳細で正確な目録の校訂作業が必要不可欠である。

一冊ずつ書誌情報を博捜するため、作業時間 がかかっている。

そうした中で筆者が注目した史料が仮番号 0926 の「諸流 諸膳式雑記」である。端書 に「金五百三十八 全一冊」とあり、写本である。9 丁の短いものながら「佳節膳」とは じまり「雑煮吸物ノ式」などと続く。「佳節膳」には「和礼儀統要約集」とある。

これは小笠原礼法の書物である「和礼儀統要約集」(10 巻 10 冊)より抄出したものと 思われる。ただこの「和礼儀統要約集」のみではなく、「諸流 諸膳式雑記」とある通り 膳の礼式を様々な書物から抜き書きを行ったものだろう。

当然、日本古典籍総合データベースなどには記載がない。

 Research 2021 1

 近世において食に関する書物が多く刊行されている。こうした中で、こうした抄出作業 もまた行われていたことだろう。どの時期に抄出がなされたものか、更に検討を加える必 要があるものの、近世の食文化を考える上でも貴重な史料といえるだろう。